2018
05.31

児童相談所長体験から知った見えざる子どもの姿

ぴっぴのニュースクローズアップ

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一日児童相談所長

平成30年5月9日(水)、天気は雨模様。のちに曇天になりましたが、5月に入ってめずらしく肌寒さを感じる日でした。この日、著名でも福祉関係でもありませんが、「一日児童相談所長」を拝命し、ぴっぴの代表者として会議や児童福祉施設の視察に行ってきました。
5月5日~11日は児童福祉週間。児童相談所の事業を広く市民に広報するために毎年行われている事業なのだそうです。

さて、浜松市の児童相談所がどこにあるか、そしてどんな仕事をしているのか、みなさんはご存知でしょうか。福祉の資格を持たない素人の私が知ったことを書いてみたいと思います。

浜松市にある児童相談所の場所は、総合庁舎の4階にあります(浜松市中区中央1丁目12-1)。
児童相談所は、都道府県や政令指定都市に設置されるもので、0歳から18歳未満の児童を対象に、主な業務は

  1.  子どもに関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応ずること。
  2.  子ども及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行うこと。
  3. 子ども及びその保護者につき、2)の調査または判定に基づいて必要な指導を行うこと。
  4. 子どもの一時保護を行うこと。
  5.  子どもの施設入所等の措置を行うこと。

です。
その他、ぴっぴサイトでは、虐待通報に関する内容について紹介しています。
浜松市児童相談所(虐待に関する相談など)

「虐待」という言葉が出てくると、とても敷居が高いように思われますね。

所長委嘱式の後、毎週1回開催されている総合会議で具体的なケースの報告が行われました。虐待を受けている児童のいる家庭についてばかりでなく、問題行動(万引き)などを起こした児童について保護者からの相談なども取り扱い範疇です。

虐待とはどんなことをいうのか

「そもそも虐待とはどんなこと」なのか。浜松市の虐待の実態を見てみます。

児童虐待とは、子どもが親または監護者から身体的、心理的、性的に危害を加えられたり、適切な養育や保護が得られなかったり(ネグレクト)する状況を指します。
静岡県においても、浜松市も年々、児童相談所の虐待対応件数は増えています。


年度別虐待件数の表
図1.静岡県と浜松市の虐待件数の推移


年齢別虐待件数の表
図2. 28年度静岡県年齢別虐待件数

年齢別でみると小学生がいちばん多く、心理的虐待が多くなっています。(図2.参照)
「お前なんか生まれてこなければよかったのに」「お前さえいなければ」と子どもに向かって、子どもの存在そのものを否定する言葉を発することを指し、親子間のことなので家庭の外部には認識されにくいのです。
「あんたは橋の下から拾われてきた子どもだからうちの子ではない」「うちの子ではないから捨てに行く」などと親から幼少期に言うことを聞かないと言われたり、自分も子どもに言ったりした時代があったと今の祖父母の方々と話すとよく聞かれます。今のママやパパはそんなことを言われた記憶はありませんか。
カッとなって言ったもののすぐに修復すればなんのこともない親子喧嘩なのですが、子どもにずっと言い続け、心理的に子ども自身が自分の存在を否定的に見るような状況に追いやるのが虐待にあたるのでしょう。


図3.主たる虐待者

児童虐待の対応件数で主たる虐待者は母親です。(図3.参照)
母親は自分が産んで育てているため、特に小さいうちは子どもを自分の所有と考えてしまいがちです。しかし、子どもには子どもの意志があり、いつも親が思うような言動をしてくれません。そこで、反抗的になると子どもを叱ったり、叩いてしまったりした経験は思い当たる人もいるかもしれません。しつけと虐待との境界線に悩む親はいないわけではありません。先にも書いたように一時的ではなく限度を超えた状態が虐待なのです。

さて、当日、会議であがっていたケースについては、もちろん守秘義務があるので記載できませんが、小さな子どもの養育についての状況説明などがありました。
今回のケースの中で虐待に至った要因には次のようなこともありました。

  • 親の養育能力がない。
    親自身が発達障害や精神障害を持っていて子どもを育てる力がない。
    祖父母に至っても同じ場合もある。
    こうしたことから、定職につけず貧困。
  • 親自身が子どもの頃から虐待を受けていた。
    自分の子どもにも連鎖している。

また、近年、性的虐待が増えていると説明がありました(これまで言えなかった、気づかず育ったというケースはたくさんあるのかもしれません)。虐待のうちでも、親や兄弟から性的虐待を受けるという酷いケースなのです。

次に、相談のケースについて紹介がありました。こちらは子どもの万引き。
貧困からの犯行もありますが、裕福な家庭に育っていて犯行に至る場合もあり子どもの心も複雑です。

世間では知られていない一時保護所

いくつかケースについての話し合いが会議の中で行われていましたが、次のスケージュールのために中座して、一時保護所に向かいました。向かったのは一時保護所。
虐待等の理由により保護された児童や一時的に親の養育が受けられなくなった児童を24時間、365日体制で保護する施設です。どこにあるのかは、一般の市民には知らされていません。一旦、家に帰るものの何度も繰り返し保護されてくる子どももいるそうです。

当日前夜に保護されてきた児童もいたようですが、施設では落ち着いた雰囲気の中、ざっと見学しました。面接室だけは壁が厚く保護されており、最近補修された様子がうかがえます。子どもたちが荒れて壁や戸に穴を開けるため補修をしたとのこと。ここだけかと思えば、食堂の戸にもシールなどで隠してある部分もあります。わが家も思春期の息子や娘が反抗して、壁に穴を開けてくれた経験もあるので大して驚きはしなかったのですが、至る所が補修されたようです。

その後、子どもたちと職員とで昼食をともにしましたが、どの子どもたちを見ても、普段見る子どもたちと様子は変わらず、穏やかな昼食の時間でした。職員の説明によると、中には受験を控えている子どももいて、参考書を持参して保護されて来たという話も聞きました。ただでさえ、受験はストレスがつきものです。それに加えてきっと心穏やかではない環境にいるのでしょうから、将来に希望が持てるような環境を作ってあげて欲しいと願いました。

児童養護施設の苦悩

そして次は児童養護施設清明寮へ向かいました。
児童養護施設とは、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて対処した者に対する相談その他自立のための援助を行う施設です。
こちらは市民にオープンで、小学校のすぐ隣にあり、平日の昼間であったために子どもたちは通園・通学でいませんでした。施設の方々の話では、授業が終わると子どもたちが友人を寮に連れてきて楽しそうに遊んで帰るのだそうです。毎日、たくさんの子どもたちが来るので外来者に渡す名札が足りなくなるほどの日もあると聞きました。
子どもたちがいないがらんとした施設では、高校生は離れのような部屋に、また、小中学生やそれ以下の年齢の幼児たちは一人部屋ではありませんが割り当てられています。今どきの子どもですからゲームが置いてあり、集まってやっている様子が伺われます。様々な事情があっての入所者ですが、子どもたちにとっておとなの事情など関係なく過ごせる環境が作られているのは少しほっとします。

清明寮の施設見学を終えた後、施設長から施設についてヒアリングを受けました。

清明寮のような児童養護施設にはいくつも課題があると言います。ここではおよそ3つの課題を聞きました。
一つ目は、この寮に来る子どもたちの半数以上が虐待を受けて入所しているため、心の奥深くに傷を負っており、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、愛着障がい、暴力の再現化などの課題があると言います。また、発達障害を持つ子どもも増えているため、専門的なケアが必要であるということです。
二つ目は、養育の問題。
寮で生活する以上、心を癒し、職員との愛着関係を形成するには、生活や養育の小規模化が必要ですが限りがあるということです。
そして三つ目、こちらは養護施設なので、高校を卒業すれば自立しなければなりません。以前は成績が良く進学したくても大学には行けなかったのが、近年では奨学金などで進学できるようになったと聞きました。しかし、多くはありません。施設出身などというハンデから非正規にしか就職できず、転々と職が変わる子どももいて、施設を出てからどうにもならずに顔を出す子どもはまだよい方で、どこに行ってしまったのか後追いできない子どもたちもいると聞きました。

社会が子どもを守るには

こうした虐待児の実態と共に施設の役割、そしてそこで働く人々の話を聞くことにより、社会の影の一部を垣間見た気がします。
子どもたちにとっては、産んでくれた親を選ぶことができない分、それは運命なのですが、その後の人生は養育能力のない親であるならば、引き離して里親、養子縁組などを制度の中で考慮することが大切なのだとわかったような気がします。
毎年、10月になると「里親月間」ということでぴっぴにも啓発の意味を兼ねてWebサイトに啓発の文章が並びますが、ぜひとも里親に関心がある人はこうした子どもたちに再度、虐待等の連鎖を与えないためにも関わってほしいと願うばかりです。

参考:
里親制度について